/* 本文の位置 */ #main { float: left; } /* サイドバーの位置 */ #box2 { float: right; }

蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

クリスマスの怖い夢

深夜に二時間、明け方二時間というやくざな眠り方をした報いなのか、悪夢を見てうなされた。どちらもクリスマスの夢だった。

 

大学生の私が石畳の広場を歩いている。前方にはヨーロッパの博物館を思わせる石造りの巨大な建物が見える。今日はあの中の教会で社会史学の講義があって、開講時間はもうすぐだ。だけど気分が乗らない。遅刻するかもしれないし、荘厳な雰囲気が苦手だ。それに入館前に詰め所で門番の女性にあいさつをしなければならない。結局講義をさぼって建物のすぐ脇に立っているたこ焼き屋に入る。なんでこんなに雰囲気の違う建物が隣り合っているんだよ。都市計画とかないのか。店主が常連客と盛り上がっているタイプの店でうわっと思ったが、我慢して座る。たこ焼きを待つ間にもおしゃべりは続く。べらべらべらべら……。だんだん苛立ってきて、グーグルの口コミに低評価レビューを投稿しようかと思い始める。頭の中で文章を練るが、ざっくばらんな店の雰囲気をくさすつもりがなぜか褒める文になってしまう。軌道修正を試みても次々と店を称賛する文言が湧き上がる。そのうち本当にいい店に思えてきて投稿をあきらめる。やっとたこ焼きが出てきて、食べながら店の外を見ると、道の向こうに深い青を基調とした小さな洋菓子店が見える。看板に「シュトレン販売 13:20~14:10」と書いてあり、時計を見るとあと少しで販売が始まる時間だ。ちょうどいい、買って帰ろうと席を立とうとした瞬間、店主が「これサービスねッ」とたこ焼きをもう一皿出してくる。焦って二皿目を食べているうちに洋菓子店には人だかりができ、シュトレンはあっという間に売り切れてしまう。がっかりだ。手持ち無沙汰になった私はスマホで石造りの建物の公式サイトにアクセスし、講義会場を映し出すライブ配信を見る。社会史学の講義はもう終わったのか人の姿は見えない。教会らしく美しく磨き上げられた木製の座席が整然と並び、その上を吊り下げられた巨大なクリスマスツリーがブランコみたいにゆっくりスイングしている。きらめくオーナメントやまぶしい電球の光にうっとり見惚れていると突然秒針の音が響き始め、十二月二十六日〇時〇分を告げる壊れた鐘の音とともに暗転、教会の中は黒サンタの宴と化す。黒サンタだ。墨のように黒いサンタ服を着た直立不動の老人。足元にバタバタと人が倒れて小山をなしている。みな全身が真っ黒で、のたうちまわってうめき声をあげている。教会の席は焼け焦げ、破壊され、ぼろぼろに朽ちている。頭に角を生やした悪魔のような男が黒い体をわななかせ、白目だけをくっきり白くむき出して絶叫する。

 


もうひとつの夢。失踪した友達を探している人がいる。失踪した友達は幹線道路沿いを移動しているらしく、沿道のベンチには不思議な模様が残されている。ベンチの手がかりを追っていくと、当の友達が箒にまたがって空を飛んでいる。科学か魔法なのかはっきりしない。ようやく追いつくと、友達は小部屋に我々四人を招き入れる。クリスマスプレゼントだよと示された四つの籠の中には、同じデザインで色違いのペンが色別に盛り付けられている。誕生日ごとに色が違うらしい。ペンはセーラームーンの変身ペンをミニマルにしたような細軸のデザインで、ペン先と反対側に横長の六角形をした結晶がくっついている。私の誕生日ペンはエメラルドにミルクを溶かしたような緑色だ。突然扉の外が騒がしくなり、禍々しい気が吹き荒れて小部屋に侵入してこようとする。一つ目の黒サンタの瘴気だと直感する。みんなでペンをかざすと、ペンは部屋の外の怖いクリスマスからみんなを守ってくれる。

 

最後は今日人から聞いた夢の話。夢かしらと思ったときにほっぺたをつねる、という古典的な仕草があるが、その人は先日、念願叶って夢の中でほっぺたをつねることに成功したのだという。本当に痛くないので、夢だ! と気づいて感激したそうだ。「夢の中でほっぺたつねるコツ分かる? あんな、普段から現実でほっぺたつねるようにするねん!! そしたら夢の中でもスッとつねれる」と教えてくれた。