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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

2022/10/29 コインランドリーに二回行った日

今週は仕事が忙しくて生活リズムが大崩壊し、混じりけのない純粋な完徹までしてしまったため「今日は絶対仕事しないぞ」と心に決めて過ごした。とても良かった。フリーランスなので濃度は違えど毎日何かしら働いているような感じで、たまに寝床から起き上がれない日があるとその日を休日だったことにする、という運用で長らくやってきたけれど、あれって別に休日じゃなかったなと今更ながら気付かされた。あれは「仕事しなければという焦燥感と無力感に責め立てられながらベッドに倒れ伏していた日」だ。「今日は休みだ、何をしようかな」と思いながら過ごすのとは全然違う。定休日とか作った方がいいのかもしれない。

朝早くコインランドリーに羽毛布団を洗いにいった。コインランドリーが好きだ。動いている様をずっと見てしまう。ドラムが揺れるほど激しく回転すると笑いが漏れるし、たっぷりした水に羽毛布団が浸っているのを見ると胸がぎゅっと苦しくなる。この気持ちはなんだろう。宇宙船みたいなフタのガラス面に風景が映り込むのもかなり良くて、前に座っている自分と車やバイクが行き来する道路とが、回転と重なり合って二重写しになる。いつかコインランドリーのことを書きたい。

みやこめっせで開催された「いきもにあ2022」に行った。2度のオンライン開催を経て3年ぶりの現地開催ということもあって、とても混雑していた。ブースの前に人だかりができて、生き物よりも人間がたくさん目に入る。なんらかの生き物が好きな人しかここにはいない。男性はフィールドワークをしている感じの、日に焼けて体の引き締まった人が多く、女性はアニマルまたはボタニカルモチーフのテキスタイルを身につけていることが多い。そして全体的に全員、目が遠い。自分も少しそうだからわかるのだけど、前方の一点を凝視しているようでいて視線の先がどこか今/ここではない遠いところに接続されているような、そんな目だ。同類が集まっているように感じて気分がとても安らいだ。ばらぬすさんのブースでアカマダラのポストカードを買い、あとはフィッシュレザーのガチャガチャ、アオアシカツオドリのクリアファイル、ヤマアラシのトゲなどいろいろ買った。大きくてのたのたした生き物を愛好するというサークル「Notari」で無配をもらったら、カレル・チャペック山椒魚戦争』を解説したイラスト入りリーフがついていて感動し、すぐさまブースに戻ってオオサンショウウオサコッシュを買った。うみねこ博物堂で買ったヤマアラシのトゲはとても鋭く、右手に構えると魔法のステッキのようによく馴染む。2時間半ほどうろうろし、図書館に寄って帰った。借りてきた横道誠『みんな水の中』の冒頭にビューヒナー『レンツ』の一節が翻訳され引用されていた。「ぼくが思うに、個々の生命形態に接すること、石、金属、水、植物に心を開くこと、花々が月の満ち欠けに合わせて呼吸をおこなうように、夢のようにして個々の自然物の本質を自分の内部へと取りこむことは、無限の喜悦であるに違いないのです。」そういうことかもしれない。

夕方家に戻って一息つこうとしたが、干しておいた羽毛布団がちっとも乾いていないことに気がついた。羽毛があちこち生乾きのお団子になっている。たかだか20分の乾燥時間ではダメだったのだ。このままでは今晩寝る時身体にかけるものがないし、仕方がないのでもう一度コインランドリーへ行った。まさか1日に二度も行くことになるとは。夕方のコインランドリーは朝よりまぶしくて、動いている洗濯機も多かった。8分間の乾燥を繰り返しながら布団が乾き切るのを待つ。乾燥工程も眺めるに悪くはないのだけれど、水や泡が躍る洗濯工程に比べると余生という趣があってあまり興がそそられない。たくさんの小物がスノードームのフレークみたいに渦巻いている他の洗濯機の方が魅力的だが、他人の洗濯物をじろじろ見るのは良くないと思って読書をした。もっともっとコインランドリーに行きたい。だけど私は羽毛布団を1枚しか持っていない。洗濯頻度はせいぜい半年に1回なので、そうそう行けないのだ。こんなに好きなのに、悩ましい。