十時間寝た。二度寝などではなくノンストップで十時間。寝不足が続いていたもののよくこんなに眠れるものだと感心する。気がついたら明るい気分でアルプスの少女ハイジのオープニングを口ずさんでいて、そのことにも驚いた。
私には独り言を言う悪癖があり、調子が悪いと非常にネガティブな内容になる。多くは自分に死をうながすもので、もちろん言いたくはないのだが精神の調子が悪いと頭の中で一日中ネガティブな声がしており、それが時折声になって口からこぼれる。最近はずいぶんマシで「死にたさがすごい♪(歌)」や「この死にたさがすごい!にせんにじゅういち」などのポップな独り言で落ち着いているのだが、十時間眠っただけでそれが「おしえておじいさん おしえておじいさん おしえてアルムのもみの木よ」になるとは。やはり人間は俄然眠るべきだと何十回めかになる発見をした。独り言は最悪だけど、声として出力されることで自分の精神状態が垣間見えるのはおもしろいと思う。
そういえばこんなこともあった。数日前に道を歩いていたら諍いの気配がした。近くの民家の玄関扉が開けっ放しになっていて、男女が言い争う声が聞こえてくる。内容まではわからない。と、男性が出てきて家の前にしゃがみこみ、吠え始めた。怒って何かを主張しているのだが、ろれつが怪しくて意味のある内容がほとんど聞き取れない。唯一聞き取れたのは、
「チューチョーキィで死ぬんやったら死んだらええねん」
という言葉だった。なんだろう、と気になったが、男性はその後も「殺したるわ、殺す」などと物騒な台詞を口走っていたので、こわ、と思って立ち去った。
その晩、夕食を食べながら今日あったことを報告しあっていた時、突然、チューチョーキィの前後を補う会話が塊になって降ってきた。それはこんな会話だ。
「あんた、またお酒飲んで」
「おれの勝手やろが」
「お医者さんにも『このまま飲み続けてたら死にますよ』て言われたやないの」
「アホー、酒飲んで死ぬやつがどこにおんねん」
「そやから中長期的に見るとって話やんか」
「中長期で死ぬんやったら、死んだらええねん!」
どうでしょう、当たらずとも遠からずというところだと思う。道で諍いを見かけてから、意識にはのぼらなくても頭のどこかでずっとカリカリ分析をしていたんでしょうね。で、一気に答えを吐き出したのだと思う。自分が計算機みたいでおもしろいと思った出来事だった。