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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

折坂悠太 心理ツアー@ロームシアター京都

今日は折坂悠太の「心理ツアー」に行ってきた。ライブと名のつくものに出かけるのは久々だ。ちょうど丸二年ぶりくらい。一階席の後方上手通路側でそんなにいい席ではなかったけれど、ロームシアター京都サウスホールはこじんまりとしていて良い距離感だった。ピクミンで時間を潰し、開演数分前になってからスマホをしまって待っていると会場が暗転し、音が鳴り始め、舞台に折坂悠太さんと重奏のみなさんが現れた。そうそう、お芝居やライブが始まる時ってこんな感じだった。暗転してからの数十秒はとてもわくわくする。その感覚を思い出してじーんとした。

 

ライブは大変素晴らしかった。折坂悠太のことを高音が特徴的できれいな人だと思っていたけれど、どしんと飛んでくる低音の太い声もよかった。時々上を向いて歌ったり、間奏の間は横を向いていたり、うまい具合に観客から目を背けている感じが良い。赤緑に明滅するライトを浴びながら天井に向かって意味をなさない声をほとばしらせたりすると神がかり的な雰囲気だった。歌詞と声によって立ち上がる風景が土と風の気配に満ちていて、観察力にすぐれた詩人の目を持つ人だなとつくづく思う。少し古めかしく懐かしく、そのくせ数十年数百年先の未来にも同じ古ぼけた顔でしれっと魔力をふるい続けていそうな、そういうものが好きなのだ。重奏の演奏もものすごく、生音で聞けて本当に良かったと思った。久方ぶりのライブだったので音が空気の壁や衝撃として感じられ、「浴びた~!」という気持ちになった。

 

思い出した順に印象に残った歌をいくつか。「爆発」はやっぱり良かった。しょっぱなだったし気分が高ぶっていたのもあってホロリとした。「悪魔」は歌詞が好き。「雑木林うち捨てられた/自転車たちが海を目指す/たどり着けば泳ぐでもなく/けたたましくベルを鳴らした」をはじめとするマイクロノベル的情景。悪魔らしくやや芝居がかった動作が挟まるのが良かった。サブスクで大体の曲を知っていたつもりだったけれど、「針の穴」は多分今日初めて聴いて、今の自分にとても刺さった。「春」は冬が深まるとともにつらい気持ちになりがちな自分には嬉しかった。必ずまた来る春への道筋をつけてもらったような気になった。「炎 feat. Sam Gendel」は音源だと異様なMVと相まって抑うつがひどい時の感覚が喚起されるのだが、今日はちょっと明るく前向きな感じがした。そして「夜学」、「夜学」! 朗読的パフォーマンス。弾き語りで始まって一旦は重奏のみなさんがいなくなり、そしてドカンと戻ってきて、本当に素晴らしかった。

 

MCは控えめで割と淡々と演奏していく流れだった。途中、直前に楽屋で話していたという「子どもの頃怖かったもの」の話になった。

子どもの頃怖かったもの。迷子になるのが怖い、親が死ぬのが怖い。あるメンバーは親が死ぬのが恐ろしくて、どうか死なないようにと、夜寝る前に祈っていたと言うんですね。けれどだんだん死んでほしくない人が増えていくのだと。うちの子も五歳になるのだけど、親が死ぬのが怖いと言う。子どもは怖いものがたくさんあって、これは大変なことだ。深刻な問題です。けれど大人になると死んでほしくない人はどんどん増えていく。こうしてツアーであちこち巡っていると生活圏が拡張されていくような感じがあって、たくさんの出会いがある。お互い大変ですね。大変ですねというテーマの歌を、おもに歌っております。

これは記憶のみに頼った書き起こしなので正確ではないけれど、そんなようなことを折坂さんは言っていた。MCが終わって次の歌が始まったが、私は子どもの頃に心底怖かったものをまざまざと思い出して泣いていた。思い出したという表現は正確でなく、怖がっていたことに気がついたのはずいぶん大人になってからだったのだが、それならばなんで泣くのだかわからない。怖いと気づくことすらできなかったものを怖いと思えるのは、いいことだと思う。けれどやっぱり今でも少しは怖いから、これ以上くわしく書くのは止しておこう。

 

アンコールもどっさり演ってくれて、ほわ~っといい余韻を抱えてホールを出た。飲食店に行く時間でもなかったのでコンビニでラーメンとおにぎりを買って食べた。昨年のお正月にアト6の大晦日ライブで「トーチ」を聴いて衝撃を受けてから、コロナがあってようやくライブに来られて、不思議な感じだ。明日は仕事。

 

以下はアルバム「心理」とおすすめの歌へのリンクです。

 

心理 - Album by Yuta Orisaka | Spotify

 

www.youtube.com

 

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