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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

点取日記 16 無無無

引っ越したはいいものの、ないものが多くて困っている。

 

手始めに電灯がない。

机はあるけど椅子がない。

ティファールの湯沸かし器ない。

ティファールでもないのに扉の内側の取っ手が取れてる。

あ、枕もないんだった。

自転車ありません。

この季節に扇風機がない。

ハンガー足りない。

インターネット環境が揃ってない。

物干し竿。

スリッパ。

ごみ箱。

ティッシュボックス。

 

生活するのにこんなに物が必要なのかよ。

引っ越し前に荷物をまとめた時、最初に考えていた量をはるかに上回る山ができたので驚いたのだ。

それなのにまだまだこんなに足りないものがある。

 

引っ越しを手伝ってくれた友人も、自分が引っ越した時荷物がものすごい量になったと言っていた。

「まあ要らんようなものなんですけどね」とのことだ。

 

上にあげたリストもまあ要らんものといえば要らんものかもしれず、絶対の絶対に必要だったら引っ越した時点で用意している。

電灯がないのは柱にデスクライトをくくりつけて対処しているし、自転車がないのでひたすら歩いているし、枕のかわりに頭の下にオオサンショウウオのぬいぐるみを敷いて寝ている。

 

確かになくても死にはしないのだが、あまりの不便さに、今日はリサイクルショップやホームセンターをまわっていくつかの物を手に入れてきた。

これでぐっと部屋らしくなったと思う。ちなみに電灯はまだない。

 


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「まねをするのはうまいものだ 8点」

 

私はものまねのレパートリーが少なくて、「いろいろな動物の威嚇シリーズ」くらいしか自信を持っているものがない。

ものまねがうまい人って普段人のどこを見ているのだろう。聞いてみたい。

 

清水ミチコが好きなんだけど、何かのライブで矢野顕子と向かい合ってピアノを弾きながら「私はあなたをずっとなぞってきました」とつぶやくシーン、なかなかぐっときた。

点取日記 15 おひっこし

今日は引っ越しだった。

友人に軽トラを出してもらって実家から荷物を運んだ。積み込む時には家族にも手伝ってもらい、おーいこっち持っていや無理ちゃうこれバラした方があっやべ鍵忘れたほんならわたし取ってくるわ次それいこかいやなんでなんこれいっかい降ろそ降ろそだから言うたやんといかにも引っ越しらしいドタバタをやりつつなんとか出発し、新居に向かった。

 

ここ数日不用品の処分やら荷詰めやらでいっぱいいっぱいになっていて忘れていたが、私は引っ越すのだ、とようやく実感が湧いてきたのは新居の手前に着いてからだった。いったいなんのために荷物を用意していたのだろう。

 

今は最低限の荷物を戸棚に並べ、明日の仕事の準備だけして、新しいベッドに寝っ転がってこれを書いている。

蓋の開いたダンボール箱がいくつも部屋に転がっていてめちゃくちゃだ。部屋らしい部屋になるにはまだかかりそうである。ひとまずカーテンだけは窓に吊るした。

 

新しい部屋は何もかも勝手が違って戸惑っている。入り口付近の床の出っ張りにはすでに3回つまずいたし、顔を洗っていても目をつむったままではどこに蛇口があるかわからない。ベッドが備え付けなのはありがたいが、眼鏡をすぐ置ける台が近くにないので不便だ。

 

前の家には10年近くいた。だから洗面所の電灯のスイッチは何も見なくたって押せる。真夜中の真っ暗な部屋に入っても何にもぶつからずまっすぐ冷蔵庫に行けるし、猫がどこに寝ているかさえだいたいわかる。

頭の中に部屋の地図ができていたのだ。

 

家は身体感覚との結びつきによって私とほぼ地続きになっていた。大げさに言うと眼鏡や杖みたいなものだ。

 

新しい部屋にやってきてそれらがリセットされてしまった。たぶん数日のうちに私はこの白地図にいろんな情報を書き込んで、あっという間に床のどの部分が軋みやすいか、洗顔の時蛇口を開ける角度は何度が理想か、身につけるだろう。

 

今日はとにかく明日に備えて寝ることにする。ベッドの寝心地は悪くない。

 


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「頭をなでてやろうか 8点」

 

8点、新居での門出にもっともふさわしい点数だと思う。

いろんな人にやさしくしてもらってこの部屋に来ました。どうぞよろしく。

点取日記 14 ちょうどいいダンボール

いらない本を郵送の買い取りに出そうと思い立った。ダンボール箱に本と書類を詰めて送ると査定してくれるらしい。

ちょうどいいダンボールが見当たらなかったが、幸いうちのマンションにはそこそこ大きなゴミ捨て場がある。回収日前になると潰れたダンボールがたくさん集まるのだ。

巻き尺で売りたい本の山の大きさを測り、よさそうなダンボールを探しに行った。

 

ダンボールを一枚ずつ引き出しては大きさを見定め、また戻すという作業を繰り返す。日が暮れた後とはいえ蒸し暑く、首と額に汗が浮かんでくる。

何度も繰り返しているとダンボールのサイズだけではなく印刷された絵柄まで気になってきた。見慣れないものがたくさんあって意外と見飽きない。

 

たとえば高そうな水素水の12本セット、紙おむつ、謎の電化製品。うちでは絶対買わないものばかりだ。季節柄かミネラルウォーターや炭酸水の箱がやたらにある。みんな水分補給に勤しんでいるようだ。

 

これらの箱すべてにかつて物が入っていて、それが今は残らず抜き取られてぺちゃんこになっているなんて少しだけ面白いなと思った。蝉の抜け殻みたいなものだ。中身を知る手がかりは、箱の表面に荒い粒子で印刷された画像しかない。

 

なかなかいいダンボールが見つからず、箱をいじくりまわしていたら、手の感触からふと書店アルバイト時代を思い出した。あの時が人生でいちばんダンボールによく触れていたと思う。

 

3年半続けた書店のアルバイトでは頻繁にダンボール箱を開ける作業があり、透明テープで密封された新しい箱を開ける瞬間が好きだった。蓋全部にカッターの刃を入れなくても、端っこにほんの少しだけ切り込みを入れて、蓋の片側を手で引っ張るとバツンと音がして箱が開く。こうすると中身を切ってしまう危険性も最小限に抑えられる、と教わった。

 

ところがどういうわけなのか不思議なんだけど、あれだけ長い間触れ続けていたはずのダンボールに、何が入っていたのか今まったく思い出せない。ツルツルしたテープも箱のほこりっぽさも、ボール紙の側面で傷つけがちな肌も克明に思い出せるのに、箱に何が入っていたかがわからないのだ。頭の中のダンボールまで抜け殻になってしまったのだろうか。

誰か中身がわかる人がいたら教えてください。

 


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「あつい日はむぎわらぼうしをかぶりませう 2点」

 

かぶりませうかぶりませう、熱中症を心配しているのかな?やさしい。

点取日記 13 カーテン、生活の裾

朝4時に目が覚めた勢いで『夏休み子ども科学電話相談』がどれだけ好きかの文章を書いて投稿したら思わぬ反響があり、自分としては滅多にないくらい、大勢の人に読んでもらった。

「熱い文章」「泣きそうになる感じわかる」などのコメントも見かけてすごく嬉しい。やっぱり『夏休み子ども科学電話相談』いいよね。

 

こんにちは。文章をこまめに書けるようになりたくて「点取日記」という日記をつけています。

すでに生産終了になった「点取占い」を5パック入手したことをきっかけに始めた、「毎日1つずつ点取占いを引き、それに関係あるような、関係ないような日記を書く」という試みです。

hachimoto8.hatenablog.com

 

今日は新しい部屋につけるカーテンの生地を買いに行った。

久々に訪れた商店街の布地屋さんはけっこう老舗らしく、店内の天井から床までたくさんの見本布が垂れ下がって森のようだったが、お客さんがたくさんいて繁盛していた。

普段手芸も洋裁もしないのでわからないけどみんな真剣に布地を見ていて、2人連れの客は「さっきのあれをあれしてさあ」などと算段している。

商店街のど真ん中のお店で賑わっているのになんとなく静かだった。たくさんの布が音を吸収するのかもしれない。

 

しばらく店内をぐるぐる回っていい柄物の布地を見つけた。

地は落ち着いた紺色で、一面に花や実や豆が白く散り、間を豹や狐とおぼしき獣がうろうろ歩いている。カーテンにぴったりな気がした。

 

店員さんを呼んで必要な長さを告げ、切ってもらうのを待つ間に、カーテンが登場する作品を2つ思い出した。

 

ひとつは電気グルーヴの「N.O.」だ。

サビの「学校ないし 家庭もないし ヒマじゃないし カーテンもないし 花を入れる花瓶もないし イヤじゃないし カッコつかないし」という歌詞。

私の状態は今かなりこれに近い。学校ないし家庭もない。ヒマでは一応ない。カーテンの布地だけはもうすぐある。花を入れる花瓶、ない。はばかりながらイヤではなく、カッコは誰がどう見てもつかない。

 

もうひとつははるき悦巳の「日の出食堂の青春」。

はるき悦巳は「じゃりン子チエ」が有名だけど、他にもいくつか漫画を描いていてどれも面白い。

次に引用するのは物語終盤のやり取りだ。細かい説明は省くけれど、高校を卒業しても働かずいつもつるんでいるアキラ、イクオ、ハルオ、ノブオの四人組が部屋でだべっている場面。話題は四人組のアイドル的存在だった女の子ミッちゃんが、高校時代は周囲から距離を置かれていた寡黙で朴訥な青年、迫丸とまもなく結婚してしまうことについて。

 

アキラ:ミッちゃんは、もうオレらに関係のない人間や。この前、迫丸のアパート通ったら、カーテンもかわっとったもんな。

イクオ:そうゆうたら、迫丸、学校で悪(ワル)やっとったわりには、女みたいなとこあるんやな。カーテンかえたりして、あの顔でカーテン縫うてるとこ想像したら、おかしなるなあ。

ハルオ:おまえはシアワセな奴ちゃなあ。

アキラ:大丈夫や、おまえは死ぬまでショックなんてないよ。

イクオ:え…

 

私は「日の出食堂の青春」の中でこの場面が一番好きだ。

はるき悦巳がどれだけドタバタした喜劇を描いてもいつも根底に流れている繊細さが発揮された名場面だと思う。

同級生のアパートのカーテンがかわっていた、それだけのことでこんなにさびしい気持ちになる。一方で呑気な友人はその変化が意味するところに気づかない。

 

新しい生活が始まる時の裾のような部分がカーテンなのだと思う。外界とプライベートを隔てる皮膜であり、無人だった部屋に対する意思表明だ。

だから低空飛行のモラトリアムを続ける「N.O.」にはカーテンがないし、ミッちゃんは迫丸にカーテンを縫って持っていく。

 

布地は母が端を処理してくれることになった。

引越し祝いにもらうつもりだ。楽しみにしている。

 


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「よいことをしてほうびをもらう 10点」

 

わー、ぴったり。あるんだこんなこと。点取占い侮りがたし。

記事をたくさんの人に読んでもらって今日はすごく嬉しい日だった。

よいことができたのならいいなと思う。聴いたことのない人は、『夏休み子ども科学電話相談』聴いてみてくださいね。