点取日記 14 ちょうどいいダンボール
いらない本を郵送の買い取りに出そうと思い立った。ダンボール箱に本と書類を詰めて送ると査定してくれるらしい。
ちょうどいいダンボールが見当たらなかったが、幸いうちのマンションにはそこそこ大きなゴミ捨て場がある。回収日前になると潰れたダンボールがたくさん集まるのだ。
巻き尺で売りたい本の山の大きさを測り、よさそうなダンボールを探しに行った。
ダンボールを一枚ずつ引き出しては大きさを見定め、また戻すという作業を繰り返す。日が暮れた後とはいえ蒸し暑く、首と額に汗が浮かんでくる。
何度も繰り返しているとダンボールのサイズだけではなく印刷された絵柄まで気になってきた。見慣れないものがたくさんあって意外と見飽きない。
たとえば高そうな水素水の12本セット、紙おむつ、謎の電化製品。うちでは絶対買わないものばかりだ。季節柄かミネラルウォーターや炭酸水の箱がやたらにある。みんな水分補給に勤しんでいるようだ。
これらの箱すべてにかつて物が入っていて、それが今は残らず抜き取られてぺちゃんこになっているなんて少しだけ面白いなと思った。蝉の抜け殻みたいなものだ。中身を知る手がかりは、箱の表面に荒い粒子で印刷された画像しかない。
なかなかいいダンボールが見つからず、箱をいじくりまわしていたら、手の感触からふと書店アルバイト時代を思い出した。あの時が人生でいちばんダンボールによく触れていたと思う。
3年半続けた書店のアルバイトでは頻繁にダンボール箱を開ける作業があり、透明テープで密封された新しい箱を開ける瞬間が好きだった。蓋全部にカッターの刃を入れなくても、端っこにほんの少しだけ切り込みを入れて、蓋の片側を手で引っ張るとバツンと音がして箱が開く。こうすると中身を切ってしまう危険性も最小限に抑えられる、と教わった。
ところがどういうわけなのか不思議なんだけど、あれだけ長い間触れ続けていたはずのダンボールに、何が入っていたのか今まったく思い出せない。ツルツルしたテープも箱のほこりっぽさも、ボール紙の側面で傷つけがちな肌も克明に思い出せるのに、箱に何が入っていたかがわからないのだ。頭の中のダンボールまで抜け殻になってしまったのだろうか。
誰か中身がわかる人がいたら教えてください。
「あつい日はむぎわらぼうしをかぶりませう 2点」
かぶりませうかぶりませう、熱中症を心配しているのかな?やさしい。