点取日記 15 おひっこし
今日は引っ越しだった。
友人に軽トラを出してもらって実家から荷物を運んだ。積み込む時には家族にも手伝ってもらい、おーいこっち持っていや無理ちゃうこれバラした方があっやべ鍵忘れたほんならわたし取ってくるわ次それいこかいやなんでなんこれいっかい降ろそ降ろそだから言うたやんといかにも引っ越しらしいドタバタをやりつつなんとか出発し、新居に向かった。
ここ数日不用品の処分やら荷詰めやらでいっぱいいっぱいになっていて忘れていたが、私は引っ越すのだ、とようやく実感が湧いてきたのは新居の手前に着いてからだった。いったいなんのために荷物を用意していたのだろう。
今は最低限の荷物を戸棚に並べ、明日の仕事の準備だけして、新しいベッドに寝っ転がってこれを書いている。
蓋の開いたダンボール箱がいくつも部屋に転がっていてめちゃくちゃだ。部屋らしい部屋になるにはまだかかりそうである。ひとまずカーテンだけは窓に吊るした。
新しい部屋は何もかも勝手が違って戸惑っている。入り口付近の床の出っ張りにはすでに3回つまずいたし、顔を洗っていても目をつむったままではどこに蛇口があるかわからない。ベッドが備え付けなのはありがたいが、眼鏡をすぐ置ける台が近くにないので不便だ。
前の家には10年近くいた。だから洗面所の電灯のスイッチは何も見なくたって押せる。真夜中の真っ暗な部屋に入っても何にもぶつからずまっすぐ冷蔵庫に行けるし、猫がどこに寝ているかさえだいたいわかる。
頭の中に部屋の地図ができていたのだ。
家は身体感覚との結びつきによって私とほぼ地続きになっていた。大げさに言うと眼鏡や杖みたいなものだ。
新しい部屋にやってきてそれらがリセットされてしまった。たぶん数日のうちに私はこの白地図にいろんな情報を書き込んで、あっという間に床のどの部分が軋みやすいか、洗顔の時蛇口を開ける角度は何度が理想か、身につけるだろう。
今日はとにかく明日に備えて寝ることにする。ベッドの寝心地は悪くない。
「頭をなでてやろうか 8点」
8点、新居での門出にもっともふさわしい点数だと思う。
いろんな人にやさしくしてもらってこの部屋に来ました。どうぞよろしく。