朝4時に目が覚めた勢いで『夏休み子ども科学電話相談』がどれだけ好きかの文章を書いて投稿したら思わぬ反響があり、自分としては滅多にないくらい、大勢の人に読んでもらった。
「熱い文章」「泣きそうになる感じわかる」などのコメントも見かけてすごく嬉しい。やっぱり『夏休み子ども科学電話相談』いいよね。
こんにちは。文章をこまめに書けるようになりたくて「点取日記」という日記をつけています。
すでに生産終了になった「点取占い」を5パック入手したことをきっかけに始めた、「毎日1つずつ点取占いを引き、それに関係あるような、関係ないような日記を書く」という試みです。
今日は新しい部屋につけるカーテンの生地を買いに行った。
久々に訪れた商店街の布地屋さんはけっこう老舗らしく、店内の天井から床までたくさんの見本布が垂れ下がって森のようだったが、お客さんがたくさんいて繁盛していた。
普段手芸も洋裁もしないのでわからないけどみんな真剣に布地を見ていて、2人連れの客は「さっきのあれをあれしてさあ」などと算段している。
商店街のど真ん中のお店で賑わっているのになんとなく静かだった。たくさんの布が音を吸収するのかもしれない。
しばらく店内をぐるぐる回っていい柄物の布地を見つけた。
地は落ち着いた紺色で、一面に花や実や豆が白く散り、間を豹や狐とおぼしき獣がうろうろ歩いている。カーテンにぴったりな気がした。
店員さんを呼んで必要な長さを告げ、切ってもらうのを待つ間に、カーテンが登場する作品を2つ思い出した。
ひとつは電気グルーヴの「N.O.」だ。
サビの「学校ないし 家庭もないし ヒマじゃないし カーテンもないし 花を入れる花瓶もないし イヤじゃないし カッコつかないし」という歌詞。
私の状態は今かなりこれに近い。学校ないし家庭もない。ヒマでは一応ない。カーテンの布地だけはもうすぐある。花を入れる花瓶、ない。はばかりながらイヤではなく、カッコは誰がどう見てもつかない。
もうひとつははるき悦巳の「日の出食堂の青春」。
はるき悦巳は「じゃりン子チエ」が有名だけど、他にもいくつか漫画を描いていてどれも面白い。
次に引用するのは物語終盤のやり取りだ。細かい説明は省くけれど、高校を卒業しても働かずいつもつるんでいるアキラ、イクオ、ハルオ、ノブオの四人組が部屋でだべっている場面。話題は四人組のアイドル的存在だった女の子ミッちゃんが、高校時代は周囲から距離を置かれていた寡黙で朴訥な青年、迫丸とまもなく結婚してしまうことについて。
アキラ:ミッちゃんは、もうオレらに関係のない人間や。この前、迫丸のアパート通ったら、カーテンもかわっとったもんな。
イクオ:そうゆうたら、迫丸、学校で悪(ワル)やっとったわりには、女みたいなとこあるんやな。カーテンかえたりして、あの顔でカーテン縫うてるとこ想像したら、おかしなるなあ。
ハルオ:おまえはシアワセな奴ちゃなあ。
アキラ:大丈夫や、おまえは死ぬまでショックなんてないよ。
イクオ:え…
私は「日の出食堂の青春」の中でこの場面が一番好きだ。
はるき悦巳がどれだけドタバタした喜劇を描いてもいつも根底に流れている繊細さが発揮された名場面だと思う。
同級生のアパートのカーテンがかわっていた、それだけのことでこんなにさびしい気持ちになる。一方で呑気な友人はその変化が意味するところに気づかない。
新しい生活が始まる時の裾のような部分がカーテンなのだと思う。外界とプライベートを隔てる皮膜であり、無人だった部屋に対する意思表明だ。
だから低空飛行のモラトリアムを続ける「N.O.」にはカーテンがないし、ミッちゃんは迫丸にカーテンを縫って持っていく。
布地は母が端を処理してくれることになった。
引越し祝いにもらうつもりだ。楽しみにしている。
「よいことをしてほうびをもらう 10点」
わー、ぴったり。あるんだこんなこと。点取占い侮りがたし。
記事をたくさんの人に読んでもらって今日はすごく嬉しい日だった。
よいことができたのならいいなと思う。聴いたことのない人は、『夏休み子ども科学電話相談』聴いてみてくださいね。