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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

点取日記 27 折れた方の枝

昨日は台風21号でなかなか大変だった。

長いこと大阪に住んでいた。大阪はあまり台風の来ない土地で、たいてい進路から逸れる。よその街がえらいことになっているのにこちらはむしろうっすら晴れている、という事態はざらで、子どもの頃はよく学校が臨時休校になるのでは、との期待を裏切られたものだ。

嘘、働くようになってからも何度も期待したし何度も裏切られた。学校にしろ仕事にしろ臨時休みとなれば後で埋め合わせをしなくてはいけないのに、どうしてあんなにわくわくしてしまうんだろう。木の実を朝4つ夕方3つやると言われて喜んでしまったお猿さんを笑えない。

 

ともかく、台風をまともに経験したことがあまりなかったのだが、京都のボロボロの新居にも平等に台風21号はやってきた。前日には職場から自宅待機の命令が出ていた。

今回ばかりは大阪も逃れようがなかったらしく、昼の13時くらいからTwitterのタイムラインで立て続けに「音すごい」「木が折れた」「停電した」「近所のビル崩れてる」といった投稿が上がり始め、なんだか巨大でものすごいものがこちらに近づいているということだけわかって恐ろしくなった。

 

15時頃、いよいよ風が強くなり、窓から見える桜の木の大きな枝がなびいて右に左に揺れた。時には木全体が空からぎゅーっと押さえつけられるみたいにたわんだ(ように見えた)。これ以上はなかろうと思っても、さらに、さらに、風は強くなる。

パリンパリンとどこかから何かの割れる音がした。開けてもいないのに窓辺のカーテンが揺れ、その時初めて窓にすきまがあることに気がついた。

 

せっかく休みになったのだからあれもこれもやろうと思っていたのに何も手につかず、窓のカーテンを開けて外の様子をぼんやり眺めるばかりだ。こころなしか、アパート全体が揺れている音がする。

心細くなって同居人はどうしているのかと思ったら、部屋の窓ガラスが外れて外へ落ち、応急処置をするのに苦労したらしい。ほかの部屋のガラスも、何枚も割れたり落ちたりしたようであった。

16時ごろになるとピークは超えたらしく一旦雨がやんだ。しばらく様子を見てから怖いような、どきどきするような気持ちで外に出た。

 

すごかった。風景が変わっていた。近隣の外壁があちこち剥がれ落ちている。植木鉢やテレビのアンテナが転がっている。何より植物の枝や葉っぱが道一面に落ち、緑の絨毯ができていた。大人の男でも動かせないような大きな枝が転がっていた。クスノキソメイヨシノサルスベリ。かりんのまだ青い実がたくさん落ちていた。ドバトが2羽、おろおろと歩き回っていて、近づいても飛ぼうとしない。強風の中で飛ぶと危険なのを知っているのだろう。

 

少し歩くと、すでに消防団の人たちが作業していた。

大きな、立派な、ニワウルシが倒木して、あたりの桜の苗木を押しつぶしていた。根元の地面が割れて持ち上がり、太い管のような根が見える。セミの幼虫が土くれの中でもがいていた。幼虫の複眼は白っぽいことを初めて知った。

「このニワウルシ、自然に生えてきたもんで、樹齢40年くらいかな。前々から伐採の命令がくだっとったんや」様子を見に来たらしいおじいさんから聞いた。

 

ほかの木は倒れなかったのに、ニワウルシは倒れた。大きなサルスベリの枝が落ちているけれど無事だった枝もある。その差はなんだったんだろうと思った。見た目にはわからなかったけれど、以前から内部が腐っていたのかもしれない。見た目には同じに見えたけど、本当は地面がゆるんでいたのかもしれない。たまたま、風当たりの強い場所に立っていたのかも。

 

台風21号はいろんなものを可視化して去っていった。漆喰が劣化していたとか、ネジが緩んでいたとか、あそこの会社は社員の扱いがひどいとか、いい加減な施工をしたお店があるとか、ひとつだけ軽い植木鉢があるとか、立派に見える枝が実は傷んでいるとか。

平和な時はわからなくても、圧倒的な災いにさらされると、弱いものがあぶり出される。自分は強いと思っている人だって、のんきに散歩をしている私だって、次は折れた方の枝になるかもしれないとか、そういうことを考えた。

 


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「よくばりなことを言うな 2点」

もうこれ以上の台風は来ないでください、お願いします。