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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

クマの手はおいしいって言うけど

クマの手はおいしいらしいと何かで読んだ。クマは木苺とかはちみつとか、鮭とかイノシシ肉とか、とにかく山の幸を手で掴んで食べるのでおいしいのらしい。

 

ほんとかよ、と思う。手は地面につけて歩いてる時間が9割以上じゃない?それから木苺の風味と鮭の風味が混ざってたら残飯みたいになるんじゃないかとか、利き手によって左右で味に優劣が出るのかとか、クマにそもそも利き手があるのか、など、謎はつきない。

 

何より不思議なのは手に味が染みこむという仕組みだ。たしかにそういうことはあるかもしれない。ブラックジャックでも交通事故でスシ職人の腕を奪ってしまったトラックの運転手が、職人の代わりに握りズシの猛特訓をして、恋人に「あなたの手、おスシの匂いがする」なんて言われる場面があったし。あと、子供のころ読んだファーブルの伝記漫画では赤の染料の開発に勤しむファーブルが、息子と「パパの手、エビみたい!」「アハハ、食べちゃダメだよ」という会話をしていた。

 

ファーブルの話は全然関係なくて、それでクマの手の話だけれど、クマの手に木苺や鮭の味がしみているなら私の手にだって普段触れているものの味がしみているはず。振り返ってみるとせっけん、シャンプー、洗顔料、クレンジングオイル、ピーリング剤、食器洗剤。まだまだある。化粧水、乳液、日焼け止め、化粧下地、チーク、ヘア・ワックス。わたしは実家で暮らしていて、料理をする機会があまりなく、よっておいしいものに手のひらで触れることはほとんどない。

 

なんということだろう。私の手は、左手は、ほぼ百パーセント、絶対にまずい。別にクマに食べさせる予定もないし、食べられたくはないけれど、絶対にまずい手を抱えて生きているというのはどうだろう。

 

私の手よりクマの手の方が、食材として優れている。食材になるのはほんとにいやだけど、何とも思ってない相手から予防線的にフラれたようなモヤモヤ感がある。人間の中でおいしい手を持っているのはきっと料理人だろう。周富徳の手なんか、大量の旨味成分がからみあって複雑な風味を作り上げているに違いない。私は食材的に役立ちそうにないので、今日も帰って猫を撫でる。そうそう、うちには7歳の雄猫がいます。