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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

いい匂いのまばたき


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「あっ。またやっちゃった」という事柄が誰の生活シーンにもあると思う。その人のある性質によって、または複数の性質の巡りあわせによって繰り返される小さな過ちが誰にでもあると思う。いわばプログラムのエラーであり、週に数度、人によっては毎日のようにやってしまうバグだ。しかしそれは些細な間違いで、些細であるためになかなか改善されない。もっと重大な欠陥、たとえばすぐ浮気してしまうとか、すぐ神社の絵馬を盗んでしまうとか、11月の夕暮れの踏切で信号音を聞き続けるとつい奇声をあげながら近くのお年寄りを次々に突き飛ばしてしまうとかであれば、人生の課題として認識できる。些細な間違いはそうはいかない。朝の通勤電車には、そうしたエラーを抱える人で今日もいっぱいのはずだ。
 
私は毎朝起きると眠い目をこすりこすり、布団を整え、寝落ちしていたらシャワーを浴びて、ごはんを食べ身支度をしてマンションを出る。最近化粧の時に香水をつけるようにしているが、なかなか気に入っている。PATCH NYC というアメリカの練り香水だ。ネットで見かけて容器に一目惚れし、ニューヨークに行かなければ買えないと思って悔しがっていたところ、偶然手に入れた。約束をすっぽかされて時間つぶしに入った雑貨屋で売られていたのだ。いくつも種類があるけれど、さんざん迷って鹿の絵の描かれた練り香水を選んだ。香りの成分はヒマラヤ杉、コリアンダー、レモン、ラズベリー。女性的過ぎず、ちょっと不思議な感じがするところがいい。左手で小さな容器を持ち、右手の中指で固いロウ状の練り香水をくるくるととって、首の左側と左手首に塗る。容器を持ち替えて左手でも同じことをする。鼻はいい方なのでほんのちょっぴりしかつけない。そしてよい気分で鞄を持って仕事に出かける。
 
ここからがエラーの話なのだが、私は家から会社へ向かう電車の中で絶対に目をこすってしまうのだ。ヌルッという感触がして、あっ、またやってしまった、と思う。中指に残っていたさっきの香水が目頭にくっつく。皮膚につけるものだから問題ないかもしれないけれど、目の周りは皮膚が薄くて心配になるし、なんとなく違和感が残る。
練り香水を使うまで自分がどれだけ中指を使っているか知らなかった。私の手は中指が一番長く、人差し指より1センチほど突き出ている。注意して自分の行動を観察していると、エレベーターのボタンを押すのも中指だし、紙の感触を確かめるのも中指だし、鞄の持ち手を引っ掛けるのも中指である。クソ野郎に突き立てるための指だと思っていたが、長くてすごく便利なのだ、中指は。

 

エラーには気づいたが、改めることはなかなかできない。今日も目からいい匂いをさせて電車に乗っている。