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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

アレチウリの野郎

昨年からなんかおるなと思ってはいた。見慣れない蔓植物が中庭の一角で放置自転車にぐるぐる抱きつき、勝手にあがらせてもろてます、みたいな顔で茂っていた。葉っぱはとても大きく掌状。少しばかり植物に関心を寄せている人ならなんとなく「ウリ科だな」と想像がつくはずだ。野良スイカか野良カボチャだろうかと思ったが、パッと見は花も実もなく、庭は基本的に放置しているので結局調べもしなかった。

その蔓植物が今年に入って爆発した。繁茂も繁茂、跋扈も跋扈、前年より明らかに勢いが良い。成長速度が凄まじく、赤紫蘇の植木鉢を置いていたのだが、しょっちゅうこの紫蘇の茎に取り付こうとするので夏の間はいちいち手で取り除いてやらねばならなかった。まわりを払ったくらいでは三、四日もするとまた次の蔓が絡みにやってくる。「ウザガラミヅルだね」と同居人が名前を付けた。ウザガラミヅルは蔓もいやらしいが、くるるんとした巻き鬚がまたいやらしい。巻き鬚というのは百均で売っているシリコンゴムのキーホルダーみたいな、あの半透明のびよよんと伸びるやつがあるでしょう、あれにそっくりな部分のことです。その巻き鬚で巻きつかれると紫蘇の茎はフックをかけられたようになって、そっと引っ張ったくらいでは外れない。無理に力をかけると紫蘇の葉っぱが傷んだりもするし、仕方ないから巻き髭を途中でちょんぎるのだが、そうすると紫蘇の茎や葉にぴろぴろと黄緑色の巻き髭が無数に垂れて残って非常にみすぼらしい。

被害は赤紫蘇にとどまらず庭一面に及んだ。いや、ウザガラミヅルがここまで隆盛を極めたのには、我々人類が何も手を打たずに状況を放置していたことが間違いなく一因としてある。その点は反省している。昨年の茂り具合を見ていたので許容範囲内に収まるのかなと思ったが、予想を遥かに超えてきた。目立って花も実もつけずひたすら蔓を伸ばし続ける謎の植物。「なんなん?」「あいつなんなん?」と、庭の前を通り過ぎるたびに疑問が頭をかすめる日が何日か続き、とうとう同居人が名前を調べた。

ウザガラミヅルは、正式にはアレチウリといった。北アメリカ原産の特定外来生物。しかも日本の侵略的外来種ワースト100にもランクインしている。大きな葉とすさまじい繁殖力で日当たりを独占して他の植物を圧迫し、樹木の枯死の原因にもなるという(以上Wikipedia情報)。ちなみに食用にはならない。めちゃめちゃカスやんけ! 取り急ぎ庭に降り、目につく場所のアレチウリを除くことにした。蔓自体は中が空っぽで弱い。同じ蔓性でもマメ科のクズなどとはぜんぜん違って、ぐいと引っ張ればわりと楽に手元へ引き寄せられる。なるほど蔓の丈夫さを捨てて成長力に回しているわけね、と妙に納得する。いつのまにか柿の木にもどっさり絡みついており、Wikipediaで見た「枯死」の二文字が頭に浮かんだ。こいつは秋冬に無料の甘味を提供してくれる貴重な木なので死なれると困る。とは言え梢に達した蔓を取り除くのは難しいから、とにかく蔓を断ち切って風化するのを待つしかない。アレチウリを駆除するためにヌスビトハギの群れに突っ込んでしまい、ズボンと軍手が緑の半月だらけになった。私はこのヌスビトハギという植物についても色々と愛憎を感じているんだけど、これは機会があれば短編にでもまとめたい。こうしてまずは庭と木にはびこるアレチウリを掃除した。一階の天井梁部分や雨樋にもついているなと気がついてはいたが「また今度」ということになった。ヌスビトハギにまみれて戦意を喪失したのである。
それで数日後、二階に上がって何気なく窓の方を見て「ひえっ」と声が出た。すりガラスの向こうに薄い黄緑の影がへばりついて揺れているのだ。「ハロー」って感じで。ホラー映画の文法使ってくるなよ。開けるとかなり威勢よく蔓が茂っていて、思わず「ふざけやがってよ~!」という罵声が出た。自分で驚くくらいにすんなりと出た。「てめえ調子に乗りやがって」とも言った気がする。あまり他人と会わない生活をしているので基本穏当な言葉ばかり使っているのだが、こういう時にヤンキーみたいなこと言ってしまうものですね。なんというか、庭にはびこっているうちは平静でいられたけれど、住居のしかも二階部分に来られたので「領土を侵犯された」と感じたのだ。縄張り意識が自分にもあったのだと思ってちょっと感心した。相手が蔓植物というのがなんとも自分らしい。

あわてて屋根に出て窓辺のをひっぺがし、雨樋に巻き付いたのを引きちぎり、丸めて庭にぶん捨てた。屋根の上にぱらぱらと星みたいな緑の粒が転がって、これが実だったかと気がついた。庭に捨てるだけでは意味がないことは薄々わかっている。もう冬が近い。きっとすでに大量の実を蒔き終えて、冬越えの準備を着々と進めているはずだ。アレチウリとの戦いは来年の春からが本番になる。根絶にはおそらく数年必要だ。数年後なんてここに住んでいるかどうかすらわからないけれど、他に駆除しそうな人も思い当たらないので、その時は”滅び”がくるんじゃないかと思う。