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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

点取日記 40 朗読会

先日の2月15日土曜日、本町のtoi booksで行われた「第4回北野勇作朗読会」に呼んでもらった。人前で朗読をするのは、ここ数年に限って言えば、昨年12月の「犬街朗読会」以来2回目だ。

 

朝起きて少し仕事をしてから、今日朗読するテキストの折本データを8P折本ツールで作った。コンビニでプリントアウトして折り目を付けて真ん中に切り込みを入れ、折って整えたら完成だ。便利な時代。

 

17時半すぎにtoi booksに着くと、店主の磯上さんが会場の準備をしているところだった。窓の方を指し、北野さんがあちらに来てますよ、と言わはるのでそちらへ回ってみると、北野さんはソファに腰掛けて作品をさらっていた。今日の流れについて簡単に話した。お客さんたちがぽつぽつとやってくる。知っている人の顔も二、三ある。着脱式の自転車ライトを取り出してネックレスに引っかけた。暗闇朗読の徒である北野さんは、会場を暗くして手元をヘッドライトで照らしながら朗読するので、私もそれに習うことにしたのだった。角度を調整するといい具合に光が当たる。

 

じきに朗読会が始まった。はじめに北野さんが朗読について話しながらキャンドルに火を灯す。つい4ヶ月前、第2回の朗読会でお客さんとして正面から見たのと同じ風景が、今日は右側にあってへんな感じ。ひとつめの短編「かめのくに」で、あっ、「模造亀(レプリカメ)」ものだっ!と嬉しくなる。しかもこのレプリカメ、口がきけるのだった。北野さんの声は穏やかだけれど、お店の奥の壁までまっすぐ届いて跳ね返る。物語そのものも、聞いている人の胸にまっすぐ落ちていっているのが暗闇なのにわかって、ひえー、と思う。翻って私は高校の頃、演劇部で活動していた程度で、朗読はおもに家で自分が楽しむためにやっている。でもここまで来て照れていてもしょうがない。

 

私は自己紹介を兼ねて過去のブログ記事をエッセイに書き直したものと、ブンゲイファイトクラブで決勝に出した「竜宮」を読んだ。エッセイは直前まで迷っていたが、大阪弁で読むことにした。その方が自然だと感じたから。最後の詩も大阪弁で読んだ。昔、朗読用に書いて結局読まなかった詩の供養ができてよかった。

 

エッセイを読み終わると、北野さんが「浦島太郎」のフレーズをトランペットで吹いてくださった。少し緊張が解けたせいかぼうっとしてしまい、遠くの世界から聴こえてくるようなラッパの響きも相まって、途中でどこを吹いているのだかわからなくなった。いろんなものの境目に足をかけて立っているような心地だった。エッセイと小説の境目とか、現実と虚構の境目とか、出演者とお客さんの境目とか。「竜宮」は書いている間に百ぺんほども音読したし、犬と街灯の朗読会でも読んだので、さほど難しくはなかった。それでも自然に体が動いたり、台詞の解釈が前と変わったところもあって、そこが面白いと言えば面白い。

 

一旦灯りを点けてトークが挟まった。飼っている亀の話。「泥世界」(©謎解き!ハードボイルド読書探偵局)シリーズの話。落語と演劇と朗読と小説の話、などなど。

 

トークが終わって、ふたたび北野さんの朗読。「砂のある風景プラス」と題したほぼ百字小説と、「蛍雪」という短編。質疑応答でほぼ百字小説から落語のSRを連想しました、と言った方がおり、そうか!とびっくりする。北野さんがまさに、と身を乗り出していた。

 

朗読会が終わったあと、ブンゲイファイトクラブジャッジの道券はなさんが来られていたことがわかった。「あっぱれ! Vol.5 憑依」の短編が面白かったです。好きです。それから、あやのさんのTwitterを見て来ました、と声をかけてくださった方があり、意外な嬉しさだった。

 

北野さんと磯上さんと、犬と街灯の谷脇氏とでご飯に行くことになった。話題はこれからの出版や書店の話や、旅先で小説を書くことについてや、いろいろ。磯上さんの話は商いをする人の手触りがあって、業界違いの私には染みる。ペンネームのことを聞かれ、頭の中がいつも雑念でうるさいんです、蜂の羽音なんです、と言うと、北野さんにスティーブン・キングの『シャイニング』や村上春樹の『遠い太鼓』にも頭の中の蜂が出てくると教えてもらった。もともとa bee in your bonnetというクリシェからとったものだから、そういう合致もあるかもしれない。

 

店を出ると北野さんは自転車で帰りますと言って、近くに停めてあった赤い自転車に乗って去っていった。谷脇氏がぽつりと「あれが娘さんを追い抜いた自転車……」とつぶやいて、思わず吹き出したが、なかなかほろ苦い、良い心持ちで自転車を見送った。

 

その日は実家に帰って休み、翌日親の本棚から『遠い太鼓』を抜き出してきた。始めの方を読んでみるとたしかに蜂について書いてあった。蜂のジョルジュと蜂のカルロがぶんぶんぶんと頭の中を飛び回ってうるさいので旅に出ることにした。そんな冒頭だ。私の蜂の名がなんというのだか知らないが、彼らにはなるべく好きに飛んでいてもらって、うまく付き合えないものかと思案している。

 


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「入学しけんには合格する 9点」

 

やったー。でもそもそも入学しけん受けたくないけど。

 

【最近よかった曲】

折坂悠太「道」「芍薬」など

キセル「くちなしの丘」