夜中まで内職して、早朝目が覚めたタイミングで作業を再開して、ということをやったせいで眠い。けっきょく全部ひとりでやっつけた。ざまあみろ。
朝から通いの仕事に出たけれど一段落ついたので昼で切り上げる。
帰って寝ようか迷った挙げ句、水曜日なので映画を見ることにした。今更ながら是枝裕和監督の『万引き家族』だ。
『万引き家族』はすごくよかった。ハッとなる画が次々にやって来て、「観る」という体験としてまず心地よかった。
「何でつながってると思ってるんだよ?」と尋ねられた時の松岡茉優の目が好きだ。
少しゆがんだような細野晴臣の音楽も好き。
全体への感想は言わないけどひとつだけ、樹木希林のこと。
樹木希林が画面にいるとそれだけで息を殺してしまうような凄みがあって、やっぱすげえな樹木希林、と思いながら見ていた。しかしふと、なんだかこの凄みすごく覚えがあるぞ、とも思った。
私は去年の秋からスポーツジムに通っている。土地柄もあるのか、会員のほとんどは老齢といって差し支えない年齢の人たちだ。私など最年少の部類と言っていい。
ジムには簡易浴場がついており、運動の後ここで風呂に入るのを私は気に入っている。気持ちがいいし、誤解を生みそうだが他の女たちの裸をぼんやり眺めるのが好きなのだ。
何が好きと言って、女たちの体つきの多様さだ。
しわくちゃだったり、アスリート体型だったり、骨と皮のようだったり、猫背だったり、でっぷり太っていたり、お乳が垂れていたり、痣があったり傷があったり、全体的にもっちりしていたり、やせてるのにお腹だけ出ていたり、毛が濃かったりなかったり、日焼けで真っ黒だったり。
普段目にする女性の裸や裸に近いものは、女優やアイドルのグラビアなどが多い。
それらが厳密な規格表にパスしたスーパーマーケットの野菜だとすると、浴場で見る裸は自分を含め、めちゃくちゃ好き放題に育った家庭菜園の野菜みたいですごく愉快なのだ。
脱衣場で体を拭いている時などに家庭菜園の野菜、もといおばあさんに話しかけられることがままある。
「あんたきれいな体しとるねえ」
とか、
「肌、白いねえ」
とか。
実際は別にそうでもなく、話しかけられるのは前述の通り30代すら圧倒的マイノリティだからである。
おばあさんこそ、若い頃それはそれはたくさんの人を恋に叩き落としたのではという面影を残していたりもする。
こういう時なんだかおばあさんの中を少女から妙齢の女性、そして至る現在までの無数の姿が一瞬横切るような気がして凄みを感じるのだ。
映画の中で樹木希林演ずる祖母が安藤サクラ演ずる信代に「あんたよく見るときれいな顔してるね」と話しかける場面がある。
話の根幹に関わるので伏せるが、この祖母の辿ってきた人生の諸々を踏まえるとすごく多面的な表情のある、いいセリフだなと思う。
しかしそれ以前にハッとした。私このおばあさん知ってる、と思った。
ジムで会った。
樹木希林の凄みは超能力や特殊技能ではなく、この世のすべてのおばあさんが隠しているものではないだろうか。
インタビューによればこのセリフは樹木希林自身が提案したものだそうだ。
もちろんそれをコントロールして画面からあふれさせてしまうのは樹木希林の力だ。でもひょっとしたら少しはあの力、いつかは私も使えるようになるんじゃないかと思ったのだった。
「山登りしておにぎりをころがした 3点」
映画で家族が訪れたのは海だったけど、山でピクニックする彼らを思い出すみたいに思い浮かべた。
妹がうっかり転がして、リリー・フランキーがおにぎりをドタドタ追いかけるところ。
楽しかったね。