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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

ぬいぐるみの使命

ひと月ほど前、職場の先輩からぬいぐるみをもらった。
(現在からすると元職場になるのだけれど、話がややこしくなるので省略する)
 
「これ、あげる」と3つ1セットになったぬいぐるみを急に渡されたのだ。
「えっありがとうございます、わーかわい、、、」と言いかけたところで"かわいい"という言葉が詰まってしまった。
 
かわいくないのだ。
 
かわいくない。
3つとも同じ目をしている。なんだか邪気をはらんでいる。こちらをじっと見返している。
 

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ぬいぐるみは元来かわいいもののはずだ。世の中に多種多様のぬいぐるみあれど、ふわふわでやわらかくて無垢な見た目がメインストリーム。そしてただひたすらにかわいく無害であることがぬいぐるみの使命だ。ところがこの3匹は。
 
イノシシとシカとサルという組み合わせにふと思い当たった。
「これ、害獣トリオですね?」
「そうそう」
 
聞けばこのぬいぐるみを、先輩は農業関連イベントの抽選会で手に入れたそうだ。元々は害獣対策用の罠や発信機などをつくる会社の販促グッズらしい。
 
イノシシ、シカ、そしてサルをはじめとする有害鳥獣による農作物の被害額は、国内で毎年190億円前後にもなると聞いたことがある。だから農家のみなさんも電気柵をつくったり狩猟免許をとって罠をしかけたり、たいへんな苦労をしている。
 
先輩はわたしが狩猟に興味をもっているのを知っていてこのぬいぐるみをくれたのだった。
 
害獣のぬいぐるみだと思ってもう一度眺めるといろいろ合点がいく。このかわいくなさ。いや、全体はすごくよくできていてかわいいのに、目だけが不穏。絶対に話が通じないだろうなという感じがする。
 
人間なんてふわふわの体に間隔の開いたつぶらな瞳でも付けておけば3万RTみたいなクソチョロい生き物なのだから、かわいさ100%に仕立てあげるのは簡単なはずだ。それをしなかったのは、これが人間に害をなす里山の侵略者たちのぬいぐるみだからだろう。
 
ぬいぐるみは、かわいい。害獣は、かわいくない。その矛盾が結集したものがこの3匹だった。
 
そう考えると害獣という概念の半分以上は、こちら側の都合でできているなと思った。
 
小さい頃、動物園でサルを見た。かわいくて面白かった。山を歩いていて、遠くをシカやイノシシが通りすぎていくことがある。美しくてかっこいい。
無害だとわかっているからだ。
 
丹精込めて作った野菜を荒らされた時や、山でばったり出くわして「襲われるかも」とお互いにおびえる時、彼らは獣から害獣へスライドし、その目の中にわたしたちは奇妙な光を見る。
 
何の縁かわたしのもとにやってきた君たちよ、君たちはかわいい。
わたしの都合で飾ってやろう。わたしの都合で名前をやろう。
 

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シカは角からして2歳齢のオスらしいので、二郎。
 

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イノシシは鼻がリッパなので、鼻(ビ)リー。
 

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サルはサルだからエテ公。
 
3匹合わせて、ジビエだ。