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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

合成フレーバーばんざい、合成フレーバーは人類の味

グミとかソフトキャンディとか大好き、ようわからん錠剤みたいなタブレット菓子もめちゃくちゃ好き。

 

それらの菓子にはたいていイチゴ、グレープ、オレンジ、メロン、などなど、実在の果物をモデルにした合成フレーバーが使用されている。なかでも私が気に入っているのは青りんご味で、青りんご味のハイチュウなんか食べるとしばらく「無」という感じになってしまう。何かよくない中毒性のものが入ってるんじゃないかと思う。

 

「実在の果物をモデルにした」と書いたけれど、実際、合成フレーバーは自称するものの味とかけ離れていることが多い。だから「人工的な味」「不自然な味」「偽物」とそしられることも多いのだけれど、何が悪いんだろう?人工的で不自然だけど、そこが美しいのだし、けっして偽物ではないと、私は思っている。

 

合成フレーバーが表現しようとしているのは味だけではない。私たちが実際の果物を食べたときの食感や期待や、ちょっとした驚きも含んでいる。たとえば青りんご味でいうと、本物の青りんごをかじった時のシャリッとした噛み心地とか、果汁が染み出てきて唾液と一体になる幸福感、赤いりんごとは違う、うすみどりがかった白い果肉の清らかさ。そういう脳の中に立ち上がるすべての感覚を、香りだけで表現したものが青りんご味だと思う。いじましいし、涙ぐましい。

 

ふだんの食事で肉や魚や野菜を食べて「なんで自然のものってこんなにおいしいんだろう?」と不思議になることがある。生き物だってまずいように進化すれば、捕食者に狙われることもない。でもその疑問は因果関係が逆転していて、「おいしいと感じられるものがたくさんあって栄養にできるから、私たちは今日まで生き延びた」が正解だ。

 

このことは人間だけじゃなくて、捕食するどんな生き物にも当てはまると思う。ここまで美味にこだわるのは人間だけだとしても。その点、合成フレーバーは人類が人類のためだけに作り出した、いわばオーダーメイドの味だ。おいしく感じてしまうのも当たり前じゃないだろうか。

 

私は断言するけれど、はるか未来に人類が宇宙へもっと進出し、地球へ二度と戻れないような大航海をすることになったとき、宇宙飛行士は合成フレーバーを携えて行く。人類が人類のためにだけ作り出したハイチュウの青りんご味を1本握って、孤独に耐え切れなくなったときに一粒ひとつぶ大事に噛む。あー人工的で不自然な味だなあ。本物の青りんごって、どんなだったかなあ。一人暮らしの女の子が辛くて悲しい夜、家でよく食べていたきんぴらごぼうを再現しようとして失敗するみたいに、そして、宇宙飛行士は泣いちゃうと思う。