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蜂インザヘッド 

ものすごく考えているか、まったく考えていない

謎の「天狗ハム」

これは今日、祖父母の家に行く道中で撮った写真です。

 

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「天狗ハム!?」「ちょっと待って、天狗、ハム?」「ハム…」「天狗てどういうこと?」「なんでハムと天狗が…」「鼻、ながない?長すぎやろ鼻」

 

この時は母とふたりで、そこそこ暗めの話題について話していたのだけれど、天狗ハムに一気に持っていかれた。そして現代人のマナーとして即座にスマホを取り出しパシャパシャ撮った。

 

帰宅してから改めて眺めてみると、いい感じに情報の少ない写真だ。

・ジャパンコールド

・めっちゃ鼻の長い天狗

・天狗ハム

・天狗中田産業株式会社

・最大積載量1300kg

・(写真では消してあるけど)京都に拠点がある

手がかりは以上。そのほか、右折するタイミングで車体の側面にも鼻の長すぎる天狗の絵がでかでかと描かれていた。全体的に年季が入っているから歴史のある会社だろう。

 

ここで会社名を検索すると、沿革やブランドの由来を解説したページが出てきてしまうのが問題だ。仕事で資料なんか作っていると「私は頭脳労働などしていない、検索結果をうまくつなげているだけなのではないか?ロシアアニメ風にいうと、Googleつなげ屋さんなのではないか?」という疑念に苦しむことが時々ある。

 

それで一切検索をせずに由来を書くけれど、天狗ハムの歴史は江戸時代末期にまでさかのぼる。あるドイツ人が貿易団の一員として京都にやってきた。しかし間もなくして仲間から裏切られ、貿易団を去る。京都の山、奥深くに逃げ込んだ彼は村の女と一緒に暮らすようになった。

 

やがて子も生まれ、ぎこちないながらも村に馴染み、この地で一生を終えることを決意した男。そうすると途端に故郷がなつかしくなるのも人間だ。「ハムが食べたい!」「ソーセージが食べたい!」幼いころは怖かった家族総出のハムづくり。かわいいブタを父がしめ、母が茹で上げ兄と食う。故郷の声は日に日に強烈になり、夢に見るようにまでなった。

 

幸い義父はマタギであった。捕らえたイノシシを分けてもらい、庭の片隅で試作の日々。調理道具や燻製小屋を自ら手作りし改良を重ねていった。はじめは呆れていた家族も、あまりの熱中ぶりにやがて手を貸すように。ひと冬の試作期間を経てハムとソーセージが完成。本国で食べたものとは違っていたが、故郷の味であり、新しい故郷の味だった。

 

はじめは家族へ、次には女の親戚へ、やがては村から町なかへ。噂はどんどん広がった。精がつく、万病が治る、邪気を払う。噂には尾ひれがついて、遠方から買いに来る客が現れた。遠い国の訛りが夜な夜な戸を叩く。「はむそうせいじくだせいな。はむそうせいじくだせいな」戸を開けた男が月明かりにニュッと顔を出すと、客は飛び上がって逃げ出した。「て、て、天狗ダァーッ!!」

 

何を隠そうこの男、身の丈六尺八寸、鼻は著しく高く、連日の注文で燻製小屋にこもりきりだから顔は熱と煤でのぼせ上がって真っ黒け。おまけに夜中に叩き起こされたものだから、いかつい眉の下でぎょろぎょろ目玉をチカリチカリ光らせていた。夜に天狗と見間違えられたのも不思議なかった。

 

こうして「天狗ハム」は生まれた。いくたびの厳しい時期を乗り越え、「天狗ハム」が今日を迎えている理由は、「代々口伝される秘密の製法があるのだ」「いや、噂を聞きつけて買いに来た大天狗が加護を与えたからだ」「めとった女の父はマタギではなく実は天狗だった」など、さまざまに言われている。

 

ちなみにこの伝承を受けて同社は年に一度、「天狗ハム・ソーセージスペシャルセット(天狗面付き)」を期間限定で発売している。天狗の面をスペシャルパッケージに、顔にはハム、鼻にはながーいソーセージが詰まった茶目っ気のある一品だ。

 

これが上の写真から導き出せる「天狗ハム」の全容だ。本当のことなんか知りたいのなら天狗中田産業株式会社 http://www.tenguham.co.jp/ のURLを貼っておくので見たらいいと思います。だけど絶対、わたしに教えないでくれよな。